海外ポスドク研究員として
海外で研究を始めた夫渡航後すぐに受け入れ先のボスが
妻の私も研究室に招いてくれた
一通り施設を案内され
夫の新しい同僚となる関係者を
紹介された後
夫が事務作業をする小さなオフィスの
中にも入らせてもらった
そこで目の当たりにした
夫の新しい仕事デスク
妻の私は既に日本で
別れを告げてきた仕事デスク
夫にはあるけど
妻にはない机と椅子とパソコンが
用意されていて
なんとも言えない気持ちになった
その後もたまに何度か訪れた
夫のオフィスと仕事デスク
埃を見つけて掃除したこともあった
拭き始めると
そのデスクの大きさが
以前私が勤め先で使っていたデスクと
とても似ていることがわかる
一瞬あの頃にタイムスリップする
PCモニターの脇には
お気に入りの薄いピンク色の
ハート型マグカップが置かれていて
ノートパソコンには黄色い付箋が
賑やかに散りばめられている
デスクの周りは同僚たちの話し声で
空気が鼓動していて
結構気に入っていたキーボードを
私が軽やかに叩く音も聞こえてきそう
ほんの一瞬のタイムスリップで
ほんの一瞬だけ昔の思い出に浸る
現実的であり理想的でもある
一瞬を噛み締めて
新しいデスクも同僚もオフィスもない
今の自分に引き戻される
これで良かったのかはわからない
これで良かったのだと言い聞かせる
これで良かったと思いながら生活する
これで良かったと思える未来が来る
*淡々と現実を受け止める、研妻哲学*
ないものに必要以上に気をとられるとき、あるものに目を向けるしかないのかもしれない
いつしかないものとあるものが融合して受け入れられるようになるのかもしれない