研究者の夫と海外で生活していたとき
家財道具を一切持たずに海外移住した
まず最初に研究施設を通じて
なんとか手配できたのは、
古くてボロボロのゲストハウス
最初の1年ほどお世話になったあと、
運よく部屋を引き継いでくれる
夫の同僚があらわれた
いよいよゲストハウスに別れを告げ
引き継ぐ部屋へ引っ越す当日
引っ越し先の部屋に着くと、
夫の同僚が残していった家財道具一式が
出迎えてくれた
ついでに日本人だったら考えられない
くらいの量のゴミもたんまり残っていたが
これは文化の違いとしてすぐに
受け入れることにした
こうしてその日まで自分たちのものでは
なかった家財道具一式を、一夜にして
手に入れたのだ
その日まで散々他人のものとして
認識していたものが、一式そろって
自分たちのものになるというのは
なんとも不思議な感覚だった
自分のものと他人のものの区別って
そもそもなんなんだと考えさせられ、
そもそも人は何も持たずに
産まれてくることにまで考えが及んだ
ここで一時この思考を停止させ
部屋も一気に広くなり、
片づけや掃除をおえて、すっかり
自分たちの住まいだと言えるように
なった頃
深夜に突然、水道管が破裂したのである
寝室、浴室、台所、ダイニング、リビングルーム、
ゲストルーム、全ての部屋が浸水し、
この日以降、住めなくなってしまう
こうして一夜にして住む家を失った
一晩で手に入れたものを、一晩で失ったのだ
この出来事は、私たち夫婦にとって
一皮むけた経験となった
*淡々と現実を受け止める、研妻哲学*
他人のモノも自分のモノで、自分のモノも他人のモノなのかもしれない