海外帯同中の妊娠、出産、キャリア
変わっていく居場所を探す日々
研究者夫の職場が
海外に決まり、
日本で勤めていた会社を辞めた私には
海外クラウドソーシングサイトで
個人のスキルを提供するという
新しい領域に挑戦していた時期がある
新型コロナが騒がれる
ずっと前
まだ妊娠も出産もしておらず
夫とふたりだけの生活
喪失感を抱えながら
何かできることはないかと
あちらこちら右往左往して
色々試して
試行錯誤を繰り返していた頃
海外の見知らぬ土地で
研究者夫が研究室から帰宅せず
家にひとりぼっちでいた時
日中は外を出歩くこともあったけれど
夜は家に籠って
夫の帰りを待つだけの日々
山の中にある
寮のような小さなワンルームで
鍋でご飯を炊き
たまに吹きこぼれを調節しながら
夕食の準備もそこそこに
ひたすらPC画面に向かい
海外クライアントからの要望に対し
ホスピタリティとITを駆使し
真摯に対応していた
これは自分のしたいことと言うより
単純にできることだった
暗黒時代と自ら呼んでいるこの時期の私に
できることと言えば
これくらいだった
自宅で唯一、
ひとりで黙々とできる
誰かの役に立つことだった
そんな生活も長くは続かず
次の挑戦が来たときに終わったのだけれど
最終的に
海外クライアントから
最高評価の5つ星をもらい
利用しなくなって数年経った今も
アカウントだけはそのままの状態で残っている
繰り返しになるけれど、
本当にもう何年も前の話
そんなこともあったっけなと
すっかり忘れかけていたとき
思いがけず
日本の企業から声がかかった
どうやら
それまでの私の経験を
少なからず評価してくれたらしい
暗黒時代の経験に価値があるという
見知らぬ日本企業のささやきがきこえてきた
信じられない気持ちで
やっと暗くて長いトンネルを抜けた気がした
まさに
Avril Lavigne(アヴリル・ラヴィーン)の曲
「Head Above Water」の心境
おかげで
出産したばかりの
まだ赤ちゃんだったわが子は
抱っこ紐の中で
この曲をよく聴かされることになる
実際に経験してから
日本での評価に繋がるまで
数年の月日が流れていた
こうして
学生にもなりきれず
専業主婦にもなりきれなかった研妻は
束の間の居場所を手に入れた
そんなわけで
そんなこともあるので
慌てなくても
焦らなくても
評価されなくても
今はいいと思える
評価はきっと遅れてやって来る
2020年11月16日、月曜日の記録